【時代考証#1】作品背景解説

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どうも、ちゃいなです。
 
新作「夢の浮橋 ~新釈源氏物語~ 若紫・夕顔・末摘花編」で、一部の用語がわかりにくい
という意見を頂きました。
 
そこで、プレイをしていただいている方が、少しでもシナリオを読みやすくなるように、
簡単な当時の用語解説をしようと思います。
 
源氏物語に詳しい方であれば「もう知っているよ!」というものばかりかもしれません。
また、辞書などをもとにはしてますが、わかりやすいよう、ゲームの内容に即すよう
オリジナルに一部アレンジしています。
 
ですのであくまで参考程度にどうぞ。
まあ、肩の力を抜いて、お煎餅でもかじりながら読んでいただけると幸いです。
 
いきなり多くのことを書きすぎると、大変な情報量になってしまうため、
少しずつ小分けで、長くゆっくりとやっていきたいと思います。

時代考証的キャラ説明 光源氏編①
 
① 光源氏は何故モテるのか。
 
これにはいろいろ理由があります。
まずは身分や地位が高いこと。お金持ちであることです。
 
また容貌や体つきが他に並ぶ者がいないほど素晴らしい。それに頭もすごく良くて、教養もある。
また源氏物語を読むとわかりますが、光源氏はよく冗談を言います。頭の固い人じゃなくて、ユーモアのある、話していて楽しい人物として描かれているわけです。
 
少女マンガの男キャラみたいですね。まさに完璧超人です。
 
  
詳しくは後日やろうと思いますが、当時の日本は身分制度社会でした。これはちょっとわかりにくいかもしれません。
今の日本に「身分」という考え方、価値観が無い以上、その説明は難しいんですが、たとえば、インド、ありますよね。
 

インドのカースト制(※)なんかはわかりやすい例じゃないでしょうか。カースト制はバラモンとかクシャトリヤの有名な階層の外に、不可触民という身分があったのをご記憶の方も多いんじゃないでしょうか。

 
これと同じようなものだと思ってください。すごい名前ですよね。不可触民。触っちゃいけないんですよ。理由は「ケガレ」が移るから。ケガレというのは単純に清潔、不潔とかの意味ではなくて、魂のケガレと思ってください。つまり触ると不幸になったり病気になったり命が縮んだりすると本気で考えられていた。
 

光源氏に会うと、人々から口ぐちに「あまりの美しさに寿命が延びるようだ」と褒め称えます。「美」=「善」=「魂の浄化」という図式があったんでしょうね。この当時の人々は美しいもの、この世のものならぬ自然とか巧みな技を見るとすぐに褒め称えて幸福絶頂に至ります。たぶん、極楽浄土の観念があるからでしょう。
   
これがあるから光源氏はモテる、というより少しでもお近づきになりたいわけです。平安時代では天皇が最も身分が高く、神と同じ存在とされていた。天皇は他の人たちとは全く別の存在なんです。天皇の次に偉いのは左大臣ですが、この二人の間にも越えられない身分の壁があるのです。
 

天皇と臣下の区別は重要です
 
 
天皇は天皇家(皇族といいます)に生まれた人間で、それ以外の人はみんな臣下です。
 
この間には大きな壁があります。あとで光源氏の複雑な出生事情にもかかわるので覚えておいてください。
 
少し天皇の話が出たので、光源氏の生まれの話をしましょう。光源氏は桐壷帝と桐壷の更衣との間に生まれた子供です。
桐壷帝は立派な天皇でした。非常に頭もよく、政治的なセンスや指導力もあったようです。源氏物語の時代はまだまだ藤原氏と天皇の力が五分五分位でしたから、こうして立派な天皇がいると強い支配体制を作れます。
フランスの絶対王政のような感じです。
 
こういった状態のとき、日本を決めるのは二つの絶対権力です。
 
一つは「法律」。平安時代の日本は厳格な法治国家でした。お役所の仕事も、人事も、律令制によってきちんと決められていた。言い忘れましたが、この当時の貴族は土地を持った領主というより官僚ですよ。
 
もう一つは天皇。天皇の命令は法律の上位に来ます。天皇の言葉がそのまま法律になるんですね。
 
当然、臣下は帝に近づこうとします。なにしろ自分の昇進も降格も天皇の采配しだいですから。出世したければ天皇に近づくしかありません。桐壷帝は立派な帝でしたから、操ることもできないわけです。
 
ではどうやって近づくか。ここで日本独特のシステムがあります。母系的天皇制です。つまり、天皇のお母さんに強い力が与えられた。
天皇はお母さんの言うことを聞きやすかったのです。お母さんの言うことを聞きやすいということは、そのお父さん。つまり天皇にとってのお祖父さんの言うことを聞きやすいということです。
 
こうして、自分の娘を入内(天皇のお嫁さんにすること)させて権力を得ようとする政治が平安時代に流行ったことは、皆さんが中学高校の歴史で学んでいると思います。
 
さて、これが光源氏の出生に大きく関わってきます。
 
有名な源氏物語の冒頭を見てみましょう。
 
いづれの御時にか、女御更衣あまた侍ひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
 
どの帝の御代であったか、女御や更衣たちが大勢お仕えなさっていたなかに、たいして高貴な身分ではないで、深い御寵愛を得ていらっしゃる方がありました。 
 
ここでの帝とは、桐壷帝のことです。
この冒頭分、一見わかりにくくて非常につまらない書き出しのように見えます。
実際、こんな書き出しで始まる小説があったら、現代ならすぐにダメ出しを受けるでしょう。
ですが、この書き出しは実は非常に多くの情報が詰まっており、かつ、ドラマチックで優れています。
 
まず、先述したように、女御、更衣がたくさん天皇に仕えているのは重要な意味を持つのです。
天皇に仕える姫が多いということは、つまりそれだけ多くの貴族が自分の娘を入内させようと、あるいは仕えさせようと躍起になったということであり。天皇の力を示しているのです。
女御や更衣の数でその天皇の権力が量れるわけです。戦闘力みたいなものですね。
 
わざわざ「あまた」と書かれているということは、それだけ桐壷帝の力が強く、多くの貴族がかしずいていたことが分かるのです。
さらに冒頭文は衝撃的な展開になります。
 
「いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり」
この寵愛を受けた人というのが、光源氏の母、桐壷の更衣です。
これは古代では大変なことでした。なぜなら、後宮の秩序を根底から吹っ飛ばすものだったからです。
 
この部分は、源氏物語の冒頭の特にわかりにくいところで、理解している人でも、「当時は恋愛に身分差別があった」
程度に解釈している場合が多いですが、事態はもう少し複雑です。
例として挙げるなら、桐壷の更衣はコミケの待機列の割り込みをやったようなものです。

あるいはディズニーランドのファストパス。

 
当時、後宮で天皇の寵愛を受ける女性というのは厳密な順番がありました。ハーレムというとエロゲーのハーレムエンドを想像してしまいますが、あれとは違い、天皇は決められた人しか愛しちゃいけなかったのです。ちょっと手を出すくらいならいいですが、みんな平等に愛する......なんてことはできなかったのです。
 
何故か?
愛して子供が出来てしまった場合、非常に大きな問題となるからです。
 
ここで、天皇を日本一番の金持ちだと思ってください。
その人に子供が一人だけなら、問題ありませんが、兄弟がいたら必ず遺産想像で揉めますよね。
それが正式な家族だけならまだしも、愛人なんかが乗り込んできたらもうドロドロになりますよね。
さらに天皇はただのお金持じゃなくて、日本全土を所有する王、「皇帝」なのです。
この遺産相続のごたごたが、「皇位継承争い」になるわけです。 
 
でもでも、ごたごたはあまり起きません。日本は予定調和というか、決まりごとに従うのが大好きで、
きちんと身分の高い女性と天皇の間に生まれた子なら、わりとすんなり受け入れられるのです。
身分が高いということは、バックにつく父親の貴族の権力も強いということですから、他の貴族が文句を言うはずありませんね。
 
でも、この皇位継承争いに身分の低い女性が絡むとどうなるか。
それより高い身分の女性たちがみんな納得いかなくなるわけです。そのバックにいる貴族たちももちろん怒ります。
そして「なんであんな娘ばかり! 俺の姫も!」「俺も俺も」「俺も俺も」となり、譲り合いのないドリフ状態となるのです。
 
つまり、身分の低い女性との子供は作らない方がいいのです。子供の数はなるべく少ない方がいいのです。
 
さて、冒頭文で「いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり」とありました。
これは安定していた政権内に、突然大問題、大スキャンダルが持ち上がったということです。
特に桐壷帝は非常に強い力を持っていた、それが突然一人の女性を寵愛したということは、突然その力を失い
かねなくなったわけです。
 
このたった一文、たった一文が、読む人が読めば非常にハラハラドキドキできる素晴らしい世界設定を描き出しているのです。
 
すげえ! さすが紫式部!
 
割と長くなってしまったので続きは次回。
 
 

※古代インドにおいて作られた身分制度。
バラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラ」という
4つの身分から成る制度で、これをヴァルナという。
(実はここから更に細かい身分にわかれているけど)
 
【ヴァルナ】
バラモン......神官職。歌を歌い神聖な儀式を行う。
クシャトリア......武士や王族、貴族。政治担当。
ヴァイシャ......平民。工業・商業を行う。一般市民。
シュードラ......人の嫌がる職業にしかなれない人。奴隷扱い。
 
上から偉い順。トランプの大富豪みたいな感じ。
このヴァルナの枠組みにすら入れない人たちを「不可触民」と言いました。」

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このページは、ちゃいなが2010年1月25日 10:47に書いたブログ記事です。

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